鱗光 第4章

──特集──  丸筑魚苑

「新ハウス池に潜入!」

第4章 錦鯉の普及に夫婦で挑む
── 一昨年前から振興会の九州地区長に就かれましたが、いかがですか?
小西 29歳で九州地区の事務局会計を仰せつかったのに始まって、今までずっと役員をしているので、それほど気負いはないんです。ただ、審査員として国内外へ出掛ける機会が格段に多くなりました。昨年は国内の大きい大会で六回、海外はインドネシアに二回と香港へ行きました。

──海外の錦鯉事情はどうでしょうか?
小西 アジア圏では錦鯉の見方が日本とほとんど変わらないようです。御三家に人気があって、品評会に熱が入っています。
うちは御三家が主力なので、多品種を要求される海外では難しいと思っていました。けれども、アジア圏であれば、うちでも勝負ができるかな、と期待しています。
ドイツにも立て鯉が好きな業者がいて、うちである程度の年数まで立てて、そのあと自国に持って帰るという例もあります。

──今後は海外へ力を入れる必要がありそうですね。
小西 しかし、本家本元でも頑張らないとね。ドイツの業者が来日したとき、「池が少なくて驚いた」と言うんです。日本ではほとんどの家に庭池があって、錦鯉を飼っていると思っていたようです。

──海外から日本の錦鯉事情をうかがうと、かなりお寒い状況に見えるんですね。
小西 若手のパワーも発揮してもらって、もっと錦鯉を盛り上げていきたいんです。

──丸筑魚苑も次世代へ引き継ぎですか?
小西 幸いなことに、息子がその気でいるようなので、新ハウス池から次の構想はまかせたいと思います(笑)。他の地区は二代目、三代目が頑張っているし、九州地区の若手も育ってきているので、役員としてはもうそろそろバトンタッチの時期かなと (笑)。

──小西さんのお話を伺っていると、まだまだ九州地区は初代パワーで頑張れそうですよ(笑)。厳しい話になりますが、国内で錦鯉を盛り上げるにも、国内の愛好家年齢層は逆ピラミッド構造で、今後はこの問題をどう払拭するかが課題となりそうです。
小西 それは錦鯉に限ったことではないと思います。若い世代がお金を出すのは、スマホばかりでしょう。

──虚構の世界ばかりで、実体験としての遊びがないのは寂しいことですね。
小西 まずは実際に錦鯉を見てもらうことが大事ですね。九州の品評会はサンメッセ鳥栖で行なうことが多いんですが、入場無料ですし、柵や仕切りがないので一般の方も立ち寄って見学することができます。そのとき、ビニール審査では鯉が見にくいので、四十五部以上はキャンバスで審査することにしたんです。

──ビニール越しとプールで鯉を見るのでは、印象がかなり変わりますからね。九鱗会の大会でも、ビニールの鯉を見ていた子供たちに「あっちにプールで泳いでいるのがいるよ」と教えたら、大喜びで見に行っていました。
小西 鳥栖市はとても協力的で、いろいろな提案をしてくれるので、主催者側としてとてもありがたいです。地域の協力なくして、品評会の成功もありませんからね。

──ところで、奥様は錦鯉の普及にネットを利用されているとか。夫人 海外のマニアにアピールすることも大事ですが、まだ錦鯉をよく知らない国内の方にPRすることも必要だと思っているんです。料理教室やいろいろなサークルに出掛けていって、フェイスブック友達を増やしているんです。それで「錦鯉は写真で見るより、実物のほうがいいよ~。一度遊びに来てください」って感じで(笑)PRしています。

──まだ見たことがない人には、かえって新鮮でしょうね。
夫人 鯉好き女子を増やそうと思って(笑)。
小西 田主丸はワイン工場があったり、フルーツ狩りが有名なんです。福岡から近いので、日帰りの観光客も多いんですよ。

──女性が喜びそうな観光地なんですね。
夫人 「田主丸に行ったことがあります」という人の大半は、フルーツ狩りのできる山の近くだけなんです。うちは川の近くなので、地理的にはちょっとズレてる (笑)。

──何かのついでに立ち寄ってもらうためのツールとして、フェイスブックを利用しようという試みなんですね。しかし、飼育未経験の方が大きい鯉を見ても、なかなか実際に飼育するまでに至るのは難しいのではないですか?
小西 まずは、錦鯉を見て楽しんでほしいんです。そうすれば、きっと飼育につながると思います。
夫人 さきほどの料理教室で知り合った人なんですが、うちに来ていただいて、写真を撮って「こんなところがあります」って載せてくれたことがあります。

──なるほど。そういう意味では口コミの宣伝になりますね。
夫人 ほかにも「ここで二時間くらい見て、お仕事の邪魔になっているから、鯉を買って預けようかな」という方もいるんですよ。
小西 池がなくても、鯉を買って、ここに預けておけばいいんですよ。そういう楽しみ方も促進したいですね。
夫人 現在の住宅事情では、家に庭があって、そこに池があって錦鯉が泳いでいる光景を想像することさえ難しいんではないでしょうか。その風景を忘れてもらいたくないから、うちで鯉を預かるなど、できるだけのサポートをしていきたいです。
小西 ところで、水の音って、いいでしょう。ボーッとするにはもってこいです(笑)。

──水音には癒しの効果があると聞いたことがあります。小西 錦鯉を楽しむことで、ここでゆったりとした癒しの時間を過ごしてもらいたいんです。それが最初にお話した「鯉カフェ」の構想に結びつくわけです。
夫人 すぐに実現するのは難しいかもしれませんが、誰でも気軽に立ち寄れる空間にしたいと思っています。錦鯉を飼いたくても池がない人や、見るだけでは躊躇されるような方でも入りやすい場所にしたいんです。コーヒー一杯で何時間でも錦鯉を楽しんでもらっていいので(笑)。

──いろいろな人が集まって鯉談義ができれば、ここは錦鯉の「サロン」になりそうですね。トップを目指す品評会の鯉を育てると同時に、新規愛好家の掘り起こしにもつなが
る一石二鳥の施設と感じました。
 このハウス池で結果が出たときには、また取材にお伺い致します。本日はありがとうございました。