鱗光 第2章

──特集──  丸筑魚苑

「新ハウス池に潜入!」

第2章 トップを目指す錦鯉作り
──丸筑紅白は仙助と万蔵の血をもとにして作られていると過去の本誌記事(二〇〇〇年八月号「紅白の改良をめざして」)にはありますが、現在の丸筑紅白はどのように生産されていますか。
小西 二代目の交配で吉岡文書さんが持たれていた仙助紅白のメスを使ったんですが、これが当たり腹でいい鯉をたくさん出してくれました。その血筋が現在の丸筑紅白の核となるオス系統です。
 メス親は阪井さんの血を導入しています。私は体形と質を優先して鯉作りをしていますが、阪井さんの鯉の体形は素晴らしいので、少しでも近付きたいな、と。

── 一昨年の取材では、メス親は阪井産でオス親は自家産とありましたね。
小西 現在、五歳になる親鯉を使っていますが、とてもいい出来です。
「ガツン」とした体形でね。将来、親にしようと思って持って帰ったんですが、品評会でもそこそこいいところに行くんじゃないかと思います。

──体形の良さで魅せる鯉なんですね。
小西 模様は二の次ですね。そのほうが、お得ですし(笑)。模様がそれほどでなくても、質と体が良ければ、大きく育てることで魅力を発揮します。
 模様が良くなくても、というか、良くないくらいのほうが、かえって面白い鯉に成長するんじゃないのかなあ。

──立て鯉なら質と体形が良ければ、模様はそれほどこだわる必要はない、と。
小西 親鯉なら模様がなくなっても(笑)。うちでは〝ホワイトローズ″って名付けた紅白の親鯉がいますけど、いい子が出ています。

──ほかにも、楽しみな鯉はいますか?
小西 第十回九州地区総合錦鯉品評会でジャンボ賞を受賞した紅白を親に使っていたんですが、その最後の子が現在87cmまで成長していて、期待の一尾なんですよ。

──そのほかの生産鯉にも80cmオーバーの鯉が何尾かいるので、これらも楽しみですね。
過去の取材時には、「85~90cmの鯉をコンスタントに生産したい」と話されています。
小西 〝コンスタント″……、うーん、これはなかなか難しいです(笑)。
ただ、それを実現するために、今回のハウス池を新設したとも言えます。

──具体的な生産状況についてお聞きしますが、一昨年は紅白が三腹、昭和三色が四腹、大正三色と衣が各一腹だったそうですが…。
小西 我ながらけっこう採ってますね(笑)。でも、全部の腹がうまくいくとは限らないので。

──昭和三色は大日系なんですね。
小西 昨年は以前、武藤養鯉場にいた右田さんが作った昭和を使いました。今年は幼魚品評会のとき、大日さんからオスを分けてもらったので、それを使ってみる予定です。

──大正三色はどうですか?
小西 阪井系です。第十五回九州地区で大会総合を獲った拝形淳一さんの鯉から出た子です。拝形さんの大正三色は、体形もいいし、墨も素晴らしい鯉です。現在うちにいる大正三色はそれの孫に当たります。

──親鯉はどのようにして選定されるんですか?
小西 定石ですけど、まずは血が近くなりすぎないようにすることです。
それとさっきも言いましたが、体形と質ですね。これに模様も加えた三拍子揃った鯉になると高価になるので、そこを見極めながら(笑)。
 うちで作ったメスで「これは親鯉にいいな」と思う鯉がいたので子採りをしたんです。頭は切ってるし、後ろの模様は軽い、肌も紅もいいという自分では及第点以上の親鯉でした。ところが、いざ産卵させてみると「なんでこんなにできないかな」と思うほど、全然いい鯉ができなかったんです。でも、好きなメスだったので諦めたくないと思ってオスを代えたら、ものすごく良くできました。

──組み合わせは大事ですね。
小西 実は丸筑魚苑のルーツとなる鯉を作った業者さんがこのメスを見て、「これを親に使っても、子はあんまり模様が出ないだろう」と言われていたんです。でも自分はこの鯉がいいと感じていたので、諦めずにオスを代えてチャレンジしました。
自分が「これ!」と思い定めた親は、二度、三度とやってみることも大事だなと、実感として思いました。



──掛け合わせは一対二ですか?人工ではないんですか?
小西 うちは自然産卵です。オス親は兄弟を使うなど、なるべく血が離れないようにしているので、それほど厳密にやる必要もないと考えていますが、紅白に関しては一対一でやったほうがいいのかもしれません。

── 一対一でオスの調子が悪いと、うまく産卵しないこともあるのでは?
小西 そういうリスクもありますが、どのオスの子かをはっきりさせるためにも、一対一でやるべきかもしれません。今年の本命腹は一対一でやってみようかな。…そのときになったら、また考えよう(笑)。

──ところで、展示池にいい衣が泳いでいましたね。
小西 あれは現在二歳です。『鱗光』さんで衣の記事を書いていて、そのなかで葡萄衣を紹介していたでしょう。あれと同じ系統になるんですよ。

──あの鯉は今回、全日本総合錦鯉品評会で種別日本一賞を受賞しましたね。どおりでいい鯉だと思いました。
小西 種別日本一賞の葡萄衣は尾形さんのところで二歳時に見つけましたが、当時の見た目は藍衣でした。見た瞬間に「これはいい衣だな」と思って、すぐに購入したのです。尾形さんが隠し池に入れてなくて幸いでした(笑)。
 夏過ぎたころから、徐々に衣が濃くなってきて、ファーストインプレッションどおりに、素晴らしい葡萄衣になりました。
 同系統のこの二歳の衣も、今はちょっと痩せていますが、頭の作りも休も良いですね。この鯉は将来、親に使うつもりなので、これから大事に育てていきたいと考えています。

──楽しみな親がたくさんで、今年も生産に熱が入りそうですね。
小西 これからは御三家と衣の四本柱で生産をしようと思っています。
家族だけではそんなにたくさん産卵させられないので、厳選して生産するつもりです。
 うちの稚魚池の面積は、三腹もあればいっぱいになるんですが、回転を良くすることで、生産量を上げています。あと、広い稚魚池を二つに仕切ったことで、非常に作業がしや
すくなりました。

──二毛作をされるんですね。
小西 そうです。五月末と七月に入ってから産卵させます。

──ここ最近、九州は雨がひどく降ることがありますが、生産に差し支えないですか?
小西 豪雨のときはたいへんです。三歳立ての野池で何尾か流されたことがあります。この野池は当歳用に代えて、それからは流されなくなりました。
 昨年、一昨年の豪雨は野池が決壊する勢いだったので心配でした。排水をやり直して、万全の体制で生産に臨みたいと思います。豪雨はやっかいですが、雨が降らないと困りますしね。

──そういえば、稚魚他の水もきれいでしたが、ハウスの新水は地下水ですか?
小西 そうです。この近くには造り酒屋があるくらいで、水はいいんですよ。もうちょっと下ると金気やマンガンが混じるそうです。

──ところで、小西さんは鯉の生産を独学で行なったと聞いています。
小西 どこかで修行したわけではないので、そういう意味では独学と言えるかもしれません。最初はありえないような生産もしていました。稚魚池にどれくらい入れていいかわからないから、とにかく全部を入れたら、できた子のサイズがバラバラになったとかね(笑)。

──実験(笑)というか、体験を積み重ねて、生産をされてきたわけですね。
小西 そう、それが現在の自分の財産になっています。体験を積んだ生産技術で 〝丸筑流″を確立できたんですね。