鱗光 第1章

──特集──  丸筑魚苑

「新ハウス池に潜入!」

福岡県田生丸で養鯉場を営む丸筑魚苑にこのほど新ハウス池が完成した。「ちょっと自慢できるハウス池なんですよ」とかねてから小西健治代表にお聞きしていたが、昨年末に完成し、今年の初売りで愛好家へのお披露目も済ませたとのこと。
1月中旬に池の状態を訊ねたところ、「上々ですよ」という返答。すぐさま現地へと赴いた。
第1章 新ハウス泄の名称は「TMポンド」
──このたびは新ハウス池の完成、おめでとうございます。初売りでも多くの愛好家が来店され、新ハウス池を楽しまれたようですね。
小西 そうなんです。天気も良く、ここ何年かで一番お客さんが多かったですね。おでんとカレーをサービスしたので、朝から夕方までずっと鯉を眺めていらっしやった方もいま
した(笑)。

──ハウス内で取材させていただいていますが、ほんとうにゆったりと錦鯉を楽しめる空間になっています。ところで、今回、なぜ新しいハウス池を造られたんでしょうか?
小西 最近の品評会で勝負しようと思ったら、堤頼りの飼育では難しいんです。泉水でしっかり飼い込んだ魚のほうが高い評価を得ています。

──九鱗会大会で全体総合だった森武征さんの昭和三色も、野池にはまったく入れなかったと聞きました。
小西 森さんはうちよりもう少し大きいハウス池で、大きい鯉を徹底的に飼育されています。いずれにしろ、品評会で高みを目指すなら、ハウス池でしっかりと飼い込むことが必要不可欠でしょう。

──まさに品評会でトップを目指すためのハウス池なんですね。
小西 そう。だからこの池は「TMポンド」という名前を付けました。

──〝T=トップを、M=目指す″ですか?
小西 〝T=トップを、M=目指したいなぁ″くらいにしときます(笑)。

──なぜ池に名前を?
小西 最近、そういう業者さんがいらっしゃるでしょう。それを真似て、この池にも名前を付けようと思って(笑)。最初は〝タマル池〟にしようと思っていたんです。

──〝タマル池″?お金が〝貯まる″ ? (笑)
小西 違います(笑)。このハウスを設計してくれたのが、丸田さんというんですが、その方がとても良くしてくださったんです。それで、その名前をひっくり返して〝タマル〟と付けようかな~、と(笑)。

──タレントのタモリみたいですね(笑)。
小西 でも、あんまり芸がないなと思ったので、ひとひねりして〝TMポンド″にしたんです(笑)。響きがいいでしょう。それにここは田主丸だから、そこから採ってTM。

──ネーミングの由来がたくさんですね。まだありますか?(笑)
小西 時を忘れるような空間という意味で、時間のTiMeから採ってTM。これで最後です(笑)。

──思いがすごく込められているハウス池だと十分に実感しました(笑)。品評会用の鯉はハウス池だけで飼育するつもりなんですか?
小西 いや、四歳までは野池と併用するつもりです。それ以降、勝負する鯉はハウスでしっかり飼い込みたいと思っています。前々からその考えはあって、昨年の九月から着工し、昨年末に完成したわけです。

──ハウス池新設はいつごろから考えられていたんですか?
小西 〝空想十年、構想五年〟 です(笑)。ちなみにうちは十年ごとにハウスを造っているんですが、ちょうど満三十年を迎えたときに新ハウスが完成しました。

──十年前のハウス完成後に、すでに新ハウスを空想されていたんですか(笑)。この場所はご自宅にも近くて、メンテナンスも行き届きそうですね。
小西 いろいろと場所も考えたんですが、やはり目の届きやすい場所に造りたかったので、近くの稚魚池の一角に設置しました。最初は15mの予定だったんですが、最終的には19mになって、金額も余計に掛かりました(笑)。

──だんだん欲が出てきたんですね(笑)。
小西 本当は池が二つ欲しかったんですが、これは予算の関係で断念しました (笑)。

──池の概要を教えていただけますか?
小西 池水量は70トン、濾過槽は二つあって各10トンです。総水量は90トンになります。

──濾過槽が二つ?第一槽と第二槽に区切ってあるということですか?
小西 いえ、これがこの池のポイントの一つなんですが、池水の循環経路が二つあるということなんです。一つは底水が濾過槽から曝気シャワーを通って池に戻る経路です。も
う一つは中間水を濾過槽に入れて、浄化してから池に戻します。

──濾過槽への取水場所が二カ所あるのは、面白い考え方ですね。
小西 最近、中間水を回す方式を採用されている養鯉場さんをよく見かけます。ただ、それだけではゴミやフンが底に溜まるので、やはり底水を回してやることも必要なのではないかと考え、それならば濾過槽を二つに分けて、一つは中間水、もう一つは底水を回そう、と。我ながらいいひらめきだと自画自賛しているんです (笑)。
──それで結果的に循環経路を二つに分けられたのですか。
小西 底水と中間水の両方を同じ濾過槽に通して、経路を一つにする方法もありましたが、同じ場所へ水を流すと抵抗の少ないほうが多く流れて、うまくいかないように感じたの
です。

──二つの場所から効率的に取水するために、濾過槽を分けられたんですね。
小西 それと、ただ底水を回すだけでは面白くないから(笑)、排水と濾過循環に分けて水を流すようにしました。これには長島商店さんの「池底排水ユニット」を採用しましたが、なかなかのスグレモノです。沈澱槽を内蔵しているので、循環水と排水を区別できるんです。
 最初はこの仕掛けを自作しようと考えていたんですが、自分で作るより簡単でいいな(笑)と思って設置しました。底水を通す場所は三カ所あるから、計六本のパイプが地底にあるわけです。

──底水循環の三カ所に向けて、池底に傾斜があって汚物が排出されやすくなっていますね。
小西 若干ですけど、傾斜をつけました。

──よく考えられた循環システムですね。ところで、濾材はどんなものを使われていますか?
小西 底水循環の濾過槽にはロール濾材、曝気シャワーにはクリスタルバイオ、中間水の濾材にはネットとヤクルトの容器を使っています。まだ池が完成したばかりなので、空の部分もあるんですが(笑)、いずれはすべての場所に濾材を入れる予定です。
 ポンプは松阪製作所さんのポン太とドカポンを使い、一時間に一回転させています。

──水深はどのくらいですか?
小西 1,5mです。
──現在、どのくらいの尾数を飼育しているんですか?
小西 約八十尾です。ほとんどがお客さんの預かり鯉です。

──現在のところ、池の調子はどうですか?
小西 上々です。曝気シャワーのおかげで鯉の調子もいいですよ。実はいま、曝気のところに、鯉の滝登りの絵を頼んでいるんです。

──濾過槽だけでなく、この池はまだまだバージョンアップしそうですね。
小西 〝カツコいいカコイ″(笑)も作ろうかなと考えているんです。鯉の飛び出し防止用に濾過槽側には付けておこうかな、と。飛び出すことは稀なんですが、念のために。
 あと、最終的には接客用のカウンターを作って、コーヒーなんかが出せたらいいなぁ、と考えています。「鯉カフェ」って感じで、一般の方にも気軽に入って鯉を見ていただきたいです。

──都会には「猫カフェ」や「うさぎカフェ」がありますから、「鯉カフェ」もなかなかいいアイデアですね。
小西 お客さんが入ってこられると「おっ!」という感じで、とても評判がいいんです。自分でも満足がいく、とてもいい池ができたと思います。ただ、これからが大事なので、
頑張って結果を出したいです。大きいサイズで何本か面白い鯉がいるので、今後を楽しみにしています。